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大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)3942号 判決

原告(家村音五郎訴訟承継人)

家村マルエ

外六名

原告ら訴訟代理人

倉田勝道

被告

奥山玉枝

右訴訟復代理人

高橋力

主文

一  被告は、別紙記載の不動産につき、訴外亡家村音五郎に対し、昭和二九年一二月二七日時効取得を原因として所有権移転登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(原告らの求める裁判)

主文第一、二項と同旨

(被告の求める裁判)

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

(原告らの請求原因)

一  訴外奥山清太郎(以下清太郎という)は、もと別紙記載の土地(以下本件土地という)を所有していたが、訴外家村音五郎(以下音五郎という)は、昭和二九年一二月二六日、清太郎から本件土地を買受ける契約を締結した。

二  音五郎は、昭和二九年一二月二六日本件土地の占有を開始し、占有のはじめ、無過失であつた、即ち右のように所有権が自己に属すると信ずべき正当の理由があつたから、起算日の翌二七日から一〇年を経過した昭和三九年一二月二七日に、仮に過失があるとしても二〇年を経過した昭和四九年一二月二七日に、本件土地所有権を時効取得したものである。

三  清太郎は、昭和三六年五月七日死亡し、長女の被告が相続により昭和三七年一〇月二二日本件土地の所有権移転登記を受け、音五郎は、昭和五一年一二月一四日死亡し、妻の原告家村マルエは三分の一、子のその他の原告らは各九分の一の割合で相続により、本件土地の共有権を承継した。

四  そこで、被告に対し、昭和二九年一二月二七日時効取得を原因とする原告らの被相続人の訴外亡家村音五郎への所有権移転登記手続をすることを求める。

(被告の抗弁に対する原告らの答弁)

一  被告の抗弁一の事実中、本件土地が農地であり、音五郎と清太郎との間の売買について知事の許可がないことは認めるがその余は否認する。

二  同二の事実は否認する。

三  同三の事実中、被告が音五郎から、昭和四六年一月本件土地の所有権移転登記をもとめる訴を提起せられたので昭和四八年六月四日以前に請求棄却をもとめたことは認めるが、その余は否認する。

(被告の答弁)

一  原告主張の請求原因一の事実は認める。

二  同二の事実中、音五郎が昭和二九年一二月二七日から占有を開始したことは認めるがその余は否認する。音五郎には占有のはじめ過失がある。即ち、本件土地は農地であるから法定条件である知事の許可が無ければ所有権が移転しないことは明白であり知事の許可がないことは調査すれば簡単に判明するのに、音五郎は何らの調査をしなかつたもので過失があるものと言うべきである。

三  同三の事実中、原告らが本件土地所有権を相続により承継したことは否認する、その余は認める。

(被告の抗弁)

一  音五郎には所有の意思はない。本件土地は農地であるところ、法定条件たる知事の許可は無く、代金も完済されていないからである。

二  音五郎は、昭和三五年頃、本件土地の占有を任意に中止し、昭和五一年死亡するまで大阪市旭区で愛人浜崎リエと同棲していたのである。

三  二〇年の時効取得の主張に対し、被告は、音五郎から昭和四六年一月二六日本件土地の所有権移転登記をもとめる訴を提起せられたので、おそくとも判決言渡の昭和四八年六月四日までに請求棄却をもとめ被告所有である旨を主張したことにより時効を中断した。

(立証)〈省略〉

理由

一音五郎は、昭和二九年一二月二六日、清太郎から、その所有の本件土地を買受ける契約を締結し、翌二七日本件土地の占有をはじめたことは当事者間に争いがない。

二〈証拠〉を総合すると次の事実を認めることができ、この認定に反する被告本人尋問の結果の一部は措信しない。

1  本件土地は、もと、北河内郡交野町大字郡津一七〇三番一、田五畝一七歩であり、本件土地の売買代金は、一坪一七〇円で一六七坪を乗じて三八、三九〇円であり、売主清太郎に対し、昭和二九年一二月二六日に内金一〇、〇〇〇円が、昭和三〇年二月七日に内金一八、〇〇〇円が支払われ、残金は三九〇円となつていたこと、

2 音五郎は、当時、他の農地を買受けて所有権移転登記を経たことがあり、農地の所有権移転には農地法三条の知事の許可を要することを知つていたが右手続をとらなかつたこと、

3  音五郎は、昭和三五、六年頃、大阪市内で愛人と同棲をはじめ本件土地を自からは耕作しなくなつたが、妻の原告家村マルエらが、音五郎の意向により、補助者として、引き続いて占有を続けて耕作を行い、昭和五〇年頃に至つたこと、一時、耕作しない期間もあつたこと、

三右の事実によると〈中略〉原告の一〇年の時効取得の主張は理由がないが、音五郎は、昭和二九年一二月二七日から昭和五一年まで、本件土地を占有(大阪市に移転後は妻の原告家村マルエらの占有補助者により占有)していたものである。

四被告の抗弁について検討する。

1 被告の抗弁一の事実中、本件土地が農地であり、所有権の移転には農地法三条の知事の許可を要するところ、右許可がとられていないことは当事者間に争いがなく、右未払代金は三九〇円という小額であることは右認定のとおりであつて或いは、当時、二八、〇〇〇円を以て完済とする旨の合意などが締結せられたのではないかと考えてもみるが、これを認めうる証拠もなく、その後、右代金を支払つた事実も認められない。そして、右売買契約において、所有権移転時期に関して特段の合意も認められないが、ともかく、音五郎は売買契約における買主なのであるから所有の意思を有するものと認められ、右のような小額の未払代金のあることは直ちに所有の意思の不存在とはならないものと考える。

2  被告の抗弁二の事実については、右認定のとおり、音五郎は、被告主張の頃から大阪市内で愛人と同棲をはじめたことが認められるが、妻の原告家村マルエらが補助者として引続いて耕作しており、音五郎が任意に占有を中止したものとは認められず、被告の抗弁は理由がない。

3  被告の抗弁三の事実中、音五郎が、昭和四六年一月二六日、被告に対し、本件土地について、被告主張の訴を提起したので、被告が、昭和四八年六月四日以前に請求棄却をもとめたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると、被告は、被告の所有である旨を主張していたが、昭和四八年六月四日原告勝訴判決が言渡され、当時確定したことが認められるが、右の事実だけでは時効中断の効力を生ずる余地はない。

五以上のように、音五郎は、昭和二九年一二月二七日から本件土地を占有し、右占有が、所有の意思をもつて、平穏かつ公然に行われたことは推定せられるから、音五郎は、二〇年を経過した昭和四九年一二月二七日本件土地の所有権を時効により取得しその効力は起算日の昭和二九年一二月二七日に遡るものである。

音五郎が、昭和五一年一二月一四日死亡し、妻の原告家村マルエが三分の一、子のその余の原告らが各九分の一の割合で音五郎の権利義務を承継したことは争いがないので、原告らは、右の割合で本件土地の共有権を承継したものであり、清太郎が昭和三六年五年七日死亡し、子の被告が清太郎の権利義務を承継したこと、被告が所有権移転登記を経たことは争いがない。

従つて、被告に対し、昭和二九年一二月二七日時効取得を原因とする原告らの被相続人の訴外亡家村音五郎への所有権移転登記手続をもとめる原告らの本訴請求はこれを正当として認容すべく民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(林繁)

(別紙)目録

交野市幾野三丁目一七〇三番一、田五五二m2

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